ルチャリブレが誕生して90年以上が経ちますが、昔も今も変わらないことがあります。それは「テクニコ vs ルード」という対戦構図です。
記念大会やトーナメントでは、テクニコ同士やルード同士が戦うこともありますが、基本はあくまで「善玉 vs 悪玉」の戦いです。ルードの選手は、日本のプロレスでは「悪役レスラー」、アメリカでは「ヒール」と呼ばれています。
では、対するテクニコの選手はどのような存在なのでしょうか。ルチャリブレ特有の呼び名である「テクニコ」とはどんな選手なのか、今回は僕「るちゃ男」の実体験を交えて解説したいと思います。
文章:るちゃ男yAI記者GEMINI
マスク職人の問い「お前は、どっちだ?」
僕がプロテストに合格して間もなくプロフェソールから「マスクを準備しておけよ」と言われ、練習仲間にマスク職人のSr.コルテスを紹介され彼の工房を訪ねた時のことです。持参したデザイン画を見せると、「ルードか? それともテクニコか?」と彼は僕にこう尋ねました。
その理由を聞くと、彼はルチャリブレの基本を教えてくれました。
「マスクの色使いには決まりがあるんだ。会場の一番後ろにいる観客にまで、どちらがテクニコで、どちらがルードなのかが一目で伝わらなければいけない。」という事でした。
テクニコは、スペイン語で「技術・技巧」を意味しますが、単に技が上手いだけではなく、誰が見ても「正義のヒーロー」として振る舞うことがルチャリブレでは求められます。
テクニコを象徴する「色」の秘密
リングから遠く離れて試合を見ている観客にもどちらがテクニコなのかわかるようにテクニコの選手が身に着けるマスクやコスチュームに使われる色にはルールがあります。
・よく使われる色: 白、赤、青、黄色、水色などの鮮やかな色
・その理由: 広い会場のどこから観ても観客がテクニコを応援できるように。
最近ではルードも派手な色を使うことが増えましたが、清廉な「白」や誠実な「青」などは、今もテクニコが観客にアピールするための大切な色です。

では、そんなテクニコが試合で見せる具体的な動きや得意技、そして彼らを象徴するマスクやコスチュームについて、さらに深く掘り下げていきましょう。
ルールを守り、華麗に舞う戦術
テクニコの戦い方は非常にクリーンです。そこにはテクニコ・正義の象徴としての明確なルールがあります。
・避けるべき行為: 暴言、急所攻撃、髪を引っ張る、グーパンチなどの反則に近い荒々しい攻撃
・得意とする技: スピーディーな関節技や、華麗な空中技
特にリング外へ飛び出す「トペ」や「プランチャ」は、テクニコの真骨頂です。相手を倒すだけでなく、その舞う姿の美しさで観客を魅了するのが、テクニコという存在です。
基礎に宿る「カッコよさ」へのこだわり
ルチャの試合でよく見るドロップキック一つをとっても、テクニコならではの教えがあります。テクニコがドロップキックを放った後には「胸からマットに着地する」という独特の受け身を取ります。胸から着地して素早く立ち上がるためです。
この動画は、ルチャリブレの技であるドロップキックの練習風景です。
まず、一人目の男の子(黒とオレンジのウェア)がドロップキックを試みると、周りから「惜しいな!」「良い感じ、良い感じ!」といった声が上がります。男の子がジャンプしますが体制が若干前方に足も右足だけ上に浮いている状態です。
コーチがアドバイスを送ります。「真上にジャンプして、最後は胸をマットに着けるように」と
続く二人目の男の子(緑とグレーのウェア)がドロップキックを披露すると、両足を胸に近づけて真上にジャンプして両足をペットボトルに当てて、着地も胸からマットに着いています。周りからは「esa es!(その通りだ!)」と感嘆の声が上がります。そして、三人目の男の子が同じく見事なドロップキックを決めました。さらには持っていたペットボトルの上部に足が当り前の2人よりも高さがあったのでコーチが「bien!(完璧だ!)」と称賛します。
相手にドロップキックを放った後、テクニコは両腕を広げながら、胸からマットに着地する、この動きは次の動作へ素早く移るための技術であると同時に、着地までを美しく見せるための演出でもあります。コーチから「Bien!(完璧だ!)」と褒められるのは、技の威力だけでなく、その一連の動きが美しく決まったからでしょう。

メキシコの文化に根付いたヒーロー
アメリカや日本のプロレスでは「ベビーフェイス(善玉)」と呼ばれますが、メキシコでは今も「テクニコ」という呼び名が大切にされています。
それは彼らが、日々の生活で困難に立ち向かう人々のための「ヒーロー」の象徴だからです。正々堂々とルールを守り、誰よりも高く舞うその姿に、観客は自分の希望を重ねます。
あの日、工房でコルテスさんに言われたことは、単なる色の組み合わせの話ではなく、「リングに立つ以上、プロとしてどう見られるべきか」という、もっと本質的な教えだったのだと、今になって改めて感じています。
まとめ:テクニコは「希望」を運ぶプロフェッショナル
ルチャリブレの「テクニコ」とは、単なる善玉レスラーではありません。
- 一目でわかるヒーローの象徴(色彩)
- ルールを尊び、美しさを競う(技術)
- 観客の夢を背負って舞う(覚悟)
あの日、工房で職人のコルテスさんに言われた「プロとしてどう見られるべきか」という教え。それは、技術を磨くだけでなく、その姿を通じて観客に元気や希望を与えるという、ルチャドールとしての誇りでした。
次にアレナで華麗に舞うテクニコを見たとき、そのマスクの色や、指先まで神経の通った着地の美しさに注目してみてください。そこには、100年近く受け継がれてきた「光の美学」が詰まっています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ルード選手とはどんな選手?解説記事はこちら



コメント